嘘の職業
上司はよくキャバクラにいくと、かりそめの職業を名乗るプレイを楽しむ。ひとときの季節工気分を味わったり、まわりの人(新人アルバイトなど)をいきなりガラス屋にしたり漫画家にしたりする。一期一会のキャバ嬢だから嘘をついてもその場の楽しさを面白がるためにやっているものなのかと、もしかしたら新人の脳の回転のよさを確認しているのかもとか新入りの当時は思っていたが、よく考えたらリアル社会でも、彼は近隣には陶芸家と名乗っていた。
それは遅い時間にマンションを出て行く自分を説明するのがめんどくさかったのだろうが、もし近所の人に作品を見せてくれとかいわれたら墓穴を掘るのではないだろうか、もしかしたら普段からとてつもなく嘘つきなのでは? とも思ったこともある。
が、ストーリープレイという世界があって、その人は実はその世界ではえらい人なので、本当はストーリープレイへの没入の結果なのかもしれない。
僕の友達でその後上司系のトラブルで絶縁されたモデル兼編集娘もアグレッシブで、その友達とは元同級生でセックスもなにもない純粋な友達だったのだが、不思議なことに卒業後はなんと編集者をやりながら全国をストリップ巡業でまわっていたという唯一無比なとんでもない娘だった。
なにしろ衝撃の再会は、僕がブルセラショップに取材にいった際に、そこに本人のブルセラ生写真が売られていたことだった。学生時代はとてもおとなしい女の子だったのだが、なんでそんなに性に奔放になってしまったのだろう。時代のせいだろうか。
モデルプロの人間もすごかった。昼は自称商社マンを名乗る人が、銀座の転送電話秘書オフィスだけで女の子を入れ込んだりしていた。それに限らずモデルプロの人はうそつきが多く、たまに本筋のコワイ人がそれを隠していることもあるのだが、逆に堅気なのにコワイ筋の名前を出して仕事してるような嘘つきもいた。さらには事務所を虚偽の名前で借りていたため、ペイントしまくった事務所を追い出されたなんて人もいた。だいたい申告なんかもしてないところも多く、足が付かないようにだろうが、1年ごとに事務所も人も名前を変えて適当な名前を名乗っている会社とかもあった。実にいい加減だよね。
仕事上の嘘つきもいて、既婚なのに未婚を装っていて、ネットへも何か書いていたのか同僚が検索して履歴の嘘もばれて、急に3日目くらいで実家へ帰るといいやめた人。嘘でも仕事してくれればいいのに。経歴の詐称なんて大きいと困るけど、多少は気にしないよ。
あの頃のことをちゃんとした文章にまとめられる能力はないのだが、なんというか、一般に人間の本質としては誠実に生きたいというのが多いということが世間の常識になっているが、僕の当時見ていた範囲の人々は自分に正直な嘘つきの人だった。もしかしたら僕のいた場所の人は磁場がゆがんでるのかもしれないけど、たとえば女の人と付き合う時でも、深く入っていくと思わぬ二面性を目にすることもあるわけで、そんなに変なことではないのかなという気がしてしまうこともあり。人はひとつのことを脈々とこなしていける人と、ひとつのところではたまらなくストレスがたまって別のことをせずにはいられない人と、ふたつのタイプがいるのでは。浮気しない人と浮気する人というのもそれと同じことなのかもしれない。
嘘つきという一言で済ませるよりは、人の多面性みたいに肯定的な捕らえ方をすればいいのか、否かはわからないが、もしかしたら虚飾の職業を楽しむみたいな人が実はたくさん世の中にはいるのかも。
ネット社会の現代でも、実はサラリーマンなのにネット上では自称ニートみたいなこという人も多かったですけど、ほんとはモテるのに自称非モテみたいにいう人もいたりしますけど、よく考えたら思想としては同じなのかもしれないです。
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という文面を8月3日頃によった勢いで書いて
下書きのままになっていたので、いまさら公開。
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