昭和の犠牲
歌舞伎町/Ren |
いま別になにもしなくても、月30万円台くらいは某所から貰えるのだが(非正規の多い時代人によっては多くも見えるし、年齢から見たら正規で本来40-50以上は貰っているのが当然で、超少なくも見える)。でも、逆に30万円台のお金をもらうだけの収益を上げていない。本来はサポート・広報的なことを一手に背負っているので、収益をあげないパターンを理解してもらいたいのだが、人はポジションでいうし、隙あらば立場を問わずしていじめてくるので、正直理解はされていない。一回倒れたから、お情けでなんとか生かされているのだ。少ないぶんの糊口は、わずかなアフィリエイトでしのいでいるので、そんなに困ることはないが、金が余るほど多くはない。
今、プライドも何もないし、いくら生活できていても、別にいつでも「責任を!」といって辞めていいわけで、そのつもりだ。だが、あえて残っているのは、単純に辞めさせられないために行っていたことが全て足かせになっているからである。要は急にいなくなると、流れが変わること、誰もわからなくなることを複数抱えているからだ。しまった、と思った。誰にも引き継いでもらえるようにしておくほうが、自身が軽くなれる。
いくら若い時には億単位で職場に利益を出していたとはいえ、そんな記憶はあっという間に消えていくわけで、誰も覚えていない。なぜ、この職場にいるのだろう? と思われても当然だ。私は、全然人としては若い頃の、ダメなままだと思っている。
ところで最初に言った30万円台といっても子供の頃聞いた、当時今と同じくらいの年齢の、親の手取りより20万円くらい少ないので、時代を経た金銭価値の違いなら、同じ年齢の親の収入とは体感で50万円くらいは違っているのではないか。やっぱり職業選択というものは重要だ。
遠い昔に、最初に就職した会社は正社員という触れ込みだったが、社保もないような、まったく零細な編集プロダクションで、仕事は不動産パンフから航空会社から植木からパソコンソフト関連の本の仕事までしていたが、だんだん社長がイタチに見えるようになるくらいには病んできて、さらに、そのガチなプロダクションの金銭的な問題点に気がついて試用の段階で逃げ出した。正社員になろうが、社保なんか、永遠に入れないし、年金もないからね。「実用書をやります」とだけ行って、去りました。
ほとんどのスタッフがアルバイトという、成り上がりたい若者たちに競争原理で同じような仕事をさせ、わずかにボーナスで還元し、運が良ければえらくなってやっと正社員、という下剋上的なオフィスは、下を絞れば上が美味しいといった構造で、利益の実がたくさんなり、あっという間にたくさんの不動産を得ていった。幸いにして、そういう精子の競争みたいな場所は、学歴のない僕が才能を発揮するのには適していた。日々、世間の方々の白濁によってできるお金を稼いでいたのだ。白いビルを見ながら、そのようなどうでもいいことを考えていた。
その場所は、外への金払いはよかったし、社保や年金は一応加入しているものの、結構ひどくて、たとえば無断で税金対策と称して勝手に作られた判子がつかれ、会社がかける保険に知らないうちに自分が加入させられ、万が一死ぬと、掛主が潤うといった当時蔓延していたひどい税金軽減スキームなどを平気で導入し、まあ組合作ったら絶対潰すと明言されるような労使関係の無茶苦茶さ(後に前述の保険は、承諾を得ずに加入させていたことが保険会社の抜き打ち調査でかけた被保険者への電話で発覚して、後に承諾をとっていたが、さすがに今はやってないだろう。また、何人かは実際、在職中に病気で亡くなっているので、いくら美味しくても、絶対に良心は咎めているはずだ)、さらには、やはり性を扱うせいか当時女性の権利にうとく、働いている女性の諸権利を奪うのが男性ならまだわかるがなぜか女性上級管理職だという、なんともいえない理不尽があった。
令和の今では、さすがに女性スタッフがいないと成り立たない媒体の人たちの長年の努力と、不況でなり手のいなくなった業界のせいで、安直に女性が首になることはなくなったが、昭和から平成初期にかけては、せめて管理職になってかつごねない限り、結婚もしくは出産があると、なぜか引退を迫られるか、あるいは子供はあきらめて仕事を選ぶかといった判断を女性管理者が下すという、人権もなにもない、職場だった。でも、仕事自体はクリエィティブで判断も任され(というか放任されており)面白いから、結婚、出産を諦めて仕事に没頭した女性も多かった。それはただただ、今は犠牲だと思っているが、その時代、ともすればそんなことは社会全体が行っていたようなものだったから、その女性管理者を責めるのも筋違いだろうか。彼女とは一度だけメールのやりとりでチャットみたいに盛り上がったことはあったが、途中で会話をピタリと打ち切ってきた。さすが、決して深入りしてこない「冷徹さ」を保つ才能を持つ優秀な管理者だ。彼女にも本心というものはあるだろうが、締めるべきところを締めることを重視し、利益最大化に務めるため、名誉男性として生きていたのかもしれない。
この世の中、手元に資産のある人間、あるいは反対にお金がなくて生活保護を受けられるような世帯、あるいは務所で暮らすような悪い人以外は金を稼がないと生きて行きづらい。
※ちなみに、キツめなこと書いていますが、この日記はフィクションです。